JDC信託

金融庁は9月15日に、JDC(ジャパン・デジタル・コンテンツ)信託の信託免許を同日付で取り消したと発表した。法令上必要な純資産額(1億円)を下回ったうえ、顧客財産を適切に管理する内部管理体制の構築が難しいと判断した。(9/16日経朝刊より)

金融庁は15日、知的財産権信託会社「JDC信託」の信託免許を取り消す方針を固めた。同社は、04年の信託業務法改正で一般事業会社として初めて信託業務免許を取得。「シネマ信託方式」で、映画「フラガール」の製作資金を支援した。だがその後ヒット作に恵まれず経営が悪化。(9/15毎日夕刊より)

この「JDC信託」の設立の経緯については、岩崎明彦著「『フラガール』を支えた映画ファンドのスゴい仕組み」に詳しい。岩崎氏のこの著作によれば「フラガール」より前には通常の独立系制作会社として映画製作をおこなっていた、シネ・カノンが、この映画からファンド方式に切り替えたのは、岩崎氏による粘り強い説得の成果。シネ・カノン代表の李鳳宇(リ・ボンウ)氏は、当初はこの方式には疑問を持っていたというが、より資金集めも容易で、制作者にとっても投資家にとってもリスクの少ないというファンド方式について、熟考の上で、採用に踏み切ったようだ。

映画「フラガール」は、2006年日本アカデミー賞において、作品賞、最優秀脚本賞、最優秀監督賞、最優秀助演女優賞などを総ナメにした。独立系映画としては異例のことであった。日本中を感動の渦に巻き込み、あちらこちらで「フラガール」現象をひきおこした。舞台となった福島県への経済効果もだいぶあるのではないだろうか。私自身、作品の内容が素晴らしいだけでなく、映画製作の過程そのものが感動的な、この映画が大好きだ。

この映画の製作過程については、李鳳宇(リ・ボンウ)氏が、著作「パッチギ!的 - 世界は映画で変えられる -」に詳しく書いている。福島県の炭坑町における「ハワイアンセンター」(現スパ・リゾート・ハワイアン)を舞台にした人間物語。それは、本作におけるアシスタント・プロデューサー石原仁美氏が、地道に現地を歩き回って、掘り起こしていった歴史的真実の集大成である。それを感動的なヒューマンドラマに編み上げた、李相日(リ・サンイル)監督の執念の演出。そして渾身の演技で応えた俳優陣。この奇跡のような映画は、私にとっては、映画製作の見本のようなものであり、大学の授業でも、映画の内容面、製作面の両方で、必ず取り上げさせていただく題材である。

この李鳳宇氏の著作には「フラガール」に至るまでに手がけた沢山の作品(製作あるいは配給)にかかわる、苦労話が沢山おさめられている。映画の内容の素晴らしさに負けずおとらず、その製作過程におけるエピソードのひとつひとつが、考えさせられる教訓に満ちている。映画製作というものは、企画から資金調達、そして作品完成と興行成績結果という、まさに山あり谷ありの闘いの連続ということがよく分かる。特に、投資者からあずかった資金を、映画という芸術的映像作品につぎ込んで、それを「収益」という果実に結びつけるまでの苦労が並大抵のことではないことが良く分かる。

今回の「JDC信託」免許取り消しの問題については、その詳しい経緯について私は何も知らないのだが、名作「フラガール」への資金提供を実現したファンドの衰弱のニュースは寂しい限りだ。


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