まだるっこしい

数ある戦争映画の中でも「プライベート・ライアン」は素晴らしい。凄惨を極めたノルマンディー上陸作戦を生き残ったミラー大尉(トム・ハンクス)が、自己犠牲をものともせず、ライアン二等兵の救出作戦を遂行する。米軍のある中隊における人間模様を、徹底したリアリズムで描いている。


ところで、この映画の冒頭シーンを覚えていますか?

ライアン二等兵の、二人の兄が同時に戦死した。このことを知った母親は一体どう思うだろうか。疑問を持った女性通信員が、上司のもとへ知らせる。その上司がまたその上の上司に知らせる。そのまた上司がその上司に報告。こんな感じで情報は、ハシゴを登るように上がっていく。最後はついに将軍のもとへ到達。そこでついに将軍は決断を下す。リンカーンの演説草稿から、感動的な一節を引きつつ「ライアン二等兵を救出せよ!」と。

これはこれで感動的なシーンだ。だけどこれ、本当にまだるっこしい話です。いや、映画としてではなくて、実際の組織論として。最初の女性通信員が、直接将軍のところへ持って行けばいいんでしょ。「将軍!たいへんですー」って。実際には絶対無理だって、わかってますよ。女性通信員が将軍の愛人でも無い限りね。軍隊の組織っていうのはそういう、階層的なものなんだって。

同じ戦争映画でも「ブラック・ホーク・ダウン」のような極限状況では、さらに大変なことに。だって、こちらの映画のケースは、まさに一瞬が生死を分ける戦闘中ですよ。「おい、一体どっちへ戦車を進めたらいいんだ!」っていう状況で、「ちょっと待て、本部に聞いて確かめる」なんですからね。そんなこと言ってる間に死んじゃうんだってば、こっちは。ほんとにまだるっこしくて、ドキドキしました。

リチャード・ファインマン先生も、軍組織の情報伝達について苦言を呈している。「ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)」の中の「下から見たロスアラモス研究所」という一文だ。マンハッタン計画で原子爆弾を開発した、ロスアラモス研究所。この組織では、軍による徹底した情報管理が敷かれていた。男性職員の寮を「女性立ち入り禁止」とするかどうかを決めるだけのために、情報が上にいったり、下にいったりという、まわりくどい状況について面白く描かれている。ファインマン先生は、こういう形式的に面倒くさいのが大嫌い。

しちめんどくさい、まだるっこい組織。

こういう組織って、現代でもありませんか? ちょっと見渡せば、私たちの回りにも、いろいろあるかもしれません。それはなぜなのでしょうかね。明日は、このへんを、ピーター・F・ドラッカー先生の著書からひもといてみたいと思います。

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